東京都江東区の「まんとみ幼稚園」を訪問しました

まんとみ幼稚園はJR亀戸駅から徒歩で10分ちょっと。昔ながらの下町という風情の町にありました。表の道路からの入り口はシンプルなスライド門。でも!この門の中こそが、「こどもがこどもとして豊かにおおらかに成長していける場所」まんとみ幼稚園です。

まんとみ幼稚園の教育

昭和44年に開園した まんとみ幼稚園。2024年で創立55年を迎えます。

土地の老舗材木商「萬富」。この一帯は昭和20年の東京大空襲で周辺一帯が消失されましたが、当時の当主小山富蔵氏は、地元への報恩を願い土地の半分を公園として江東区に寄贈。残りの半分は次女近藤千恵子氏によって「まんとみ幼稚園」が作られたとのことです。

園訓は「強く 正しく 明るく おおらかに」。
倉橋想三の言葉を継承しています。

教育目標

  • 丈夫なからだと健康な心を育てる。
  • 自分のことは自分でやり多勢の友達と遊ぶ。
  • 物事にいきいきとした興味をもち考える力を育てる。
  • 人の話をよく聞き、人にわかるように話す態度を育てる。
  • 創造力を育てる 。

子ども一人一人が自ら育っていくために

思い切り遊ぶ

一日一日が成長の途中にいる子ども達。

自分のやりたいことを見つけ、気のすむまで(満足するまで)遊ぶことの中には、幼児期の発達に必要な栄養分がたっぷり含まれています。しかし、今の子ども達の生活環境では、子どもが本来の子どもらしく遊ぶことが難しくなっています。どこで遊んでもいい、誰と遊んでもいい、何をして遊んでもいい、時間を気にせず遊んでいい…。そんな昔の路地裏遊びのような子ども社会の中で、思う存分遊べる自由な時空間を大事にしています。

人間の中で人として育つ

周囲の人へ憧れや愛着を感じたり、一緒に遊ぶ人がいて楽しかったり、誰かと対立や競い合いも出来たりする、多様で豊かな人間関係が生まれる環境をつくっています。

子どもは人と関わる中で色々な感情 が引き出され、自分の心に向き合う経験もしていきます。保育者は指導者としてではなく仲間として一緒 に遊びながら理解者になり共感者になって、子どもの歩みを見守り支えていきます。

トラブルや困難が成長のチャンス

たくさんの子ども達が一緒に生活する幼稚園です。自分の気持ちや自分の力を発揮しようとすると、衝突や混乱も起こります。そんな時、子ども達のゴチャゴチャした世界を保育者が整理し、自己主張の衝突や争いをうまく裁いて解決してしまうと、せっかく子どもたちが自分なりに何とかしようとするチャンスを奪ってしまいます。

自分で感じ取り、自分で考え、試行錯誤しながら進んでいくプロセス自体の中で社会力や自立力が育っていくと考え、保育者は子どもの気持ちを感じながら共にその時間を過ごしたいと思います。

子どもの生活の拠点は、ファミリーという異年齢グループ

3歳児・4歳児・5歳児の子ども達と担任保育者のグループをファミリーとよんでいます。入園するまでは 家庭という小さなファミリーで過ごしてきた子ども達が、幼稚園では大きなファミリーに所属して園生活の 土台を作れるようにしています。年上の子どもが年下の子どもを手伝ったり、年下の子どもが年上の子 どもを真似たりする、大家族のような暮らしの中で、生活する力を身に付けていきます。また、遊び疲れて戻ってきてホッとできる場所になり、甘えたり頼ったりわがままを出したりできる、子ども達のホームとして、保育者は家族のような気持ちで子ども達を支えます。

こどもたち(年長組)のエピソード

さあ、これから、まんとみ幼稚園で出会ったこどもたちの様子。もうすぐ1年生の年長組のエピソー ドをお伝えします。

転んじゃった!

年長組が数人。園庭で遊んでいました。一緒に走り出したとたん、一人の女の子(A子ちゃん)が躓くように転んでしまいました。特に誰かが押したわけでもなかった様子。ひどい転び方でもないように見えました。

しかし、A子ちゃんは痛かったのかな?泣いてしゃがみ込んでしまいました。一緒に走り出した子たちがA子ちゃんのまわりに少しずつ集まってきました。膝をついて「大丈夫?」と声を掛けている子もいました。でもA子ちゃんは泣き止みません。ズボンの裾をめくって痛いところを 友だちに見せてもいました。一人の女の子がA子ちゃんに(こうしたらいいんじゃない?)と提案する ように声を掛けました。A子ちゃんはうんと頷いて他の子たちから離れお部屋の方に歩いていきました。

お部屋から先生が出ていらっしゃいました。自然に穏やかな表情です。A子ちゃんは膝が痛いことを伝えられたようでした。先生が「こんな風に転んじゃったの?」といった感じで、床に指で位置などを示すと、A子ちゃんは、頷いてすっかり落ち着いたようでした。

ごくごくある毎日のこと。大騒ぎをするでもなく、だからと言って転んで悲しい気持ちの友だちを放っておくでもなく・・・。遠くから見ていた私は周りの子どもたちの「優しさ」、A子ちゃんのことをわかってあげている「温かさ」を感じました。そして、A子ちゃんはこれまで幼稚園で過ごした日々でたくましくなったのだろうな、と感じました。

おにぎりやさん、もう、おわりなんです

この日は、年長組の男の子数名によるおにぎりのふるまいがありました(彼らにとっては、この日のお仕事(?)として前から決まっていたことみたい)。副園長先生のお話によると、まんとみ農園(千葉県一宮町東浪見)の近所の農家さんから分けていただくお米なんだそうです。

朝、登園してすぐそのグループの子ども達はエプロン・マスク・頭にかぶる帽子三角巾)をして炊事室に集まってきました。少しずれてるエプロンやとんがっちゃった三角帽子などなど・・。ちゃんと自分でがんばって身に着けたのですね、何ともかわいらしい!

お米を計量して、水を入れて・・・。お釜の用意ができました。園庭での火起こし。なんと、釜戸でお米を炊くんです。白いけむりと何とも言えない火おこしのいい匂い。上にお釜を乗せて。先生のお手伝いをしてうちわで風を入れる子もいます。 炊きあがったお米はちょっとお焦げもありそれもまたいい香り。

こどもたちは、一つずつおにぎりを作っていきました。 (スプーンを二つ上下に重ねたおにぎり器にご飯を入れてブンブン振って作ります)。
「おりゃ~っ!」みたいな声で気合を入れて()

「できました!」「どうぞ!」の子どもの声がかかり、幼稚園中の子どもたちが集まってきます。おかわりも1回までOK。
私もごちそうになりました。柔らかくて塩味もあって、あったかい美味しい丸おにぎり でした。

さて、ここからがエピソード。

おにぎりやさんは満員御礼。

おかえりの時間が近づき閉店となりました。ボールや椅子などが片付けられていきます。ところが、年中組の男の子(Bくん)が悲しそうに私のそばに来ました。
「まだお かわりしてない・・・。」
あ~。そうかぁ、と私が思っていると、おにぎりグルプのお兄さんたちも集 まってきてBくんの訴えを聞きます。
「でもねぇ~。もう終わりだから・・。」
納得いかずますます悲しい 顔のB君。
「残っているんだけど。。でもね。おにぎりやさん、もう終わりだから・・」
とお兄さんたち。

彼らは今日のこの後の予定を知っていたのだと思います。もう、帰る時間(お迎えの時間)だということ。それも今日は引き取り訓練。そばにいた私は困っていたのですが・・・、

お兄さんの一人がおどけた声で
「すみません、すみません!」
「もう、おわりなんです、すみません!」

って謝りだしたのです。手をお腹の前でちょこんと組んで、ペコリ、ペコリ!と頭を下げる。その様子は何ともユーモラス。隣にいたお兄さんも、もう一人のお兄さんも揃って「すみません、すみません」と謝りながら笑っ ています。

Bくんはそんなお兄さんたちの様子を見て彼も笑ってしまいました。そこへ先生の声が。おうちの方のお迎えの時間です。

なんてステキなお兄さんたち。早くおかわりをすればよかったのはBくんで、お兄さんたちはちっとも悪くないのに。謝らなくていいのに。。でも、4歳児のBくんの気持ち、なかなか立ち直れない気持ちもわかってあげられていて、おどけて笑わせてくれたんですね。

そばにいた私もつられて笑いながら、すごいな、恐れ入りました!って思いました。

園訪問レポート

難しい表現も多い「幼稚園教育要領」。その理想形のひとつをまんとみ幼稚園で見せていただいた思いがしました。その証拠こそが年長組さんたちの姿だと思います。小学校の準備としてではなく、幼児期に育ってほしいいろいろな姿をまんとみ幼稚園の年長さんはほんの数時間訪問した私にも見せてくれましたから!

現場の先生達は、子どもたちや保護者の方々の見えないところでたくさんご努力をされていると、 思いました。一人ひとりの子どものこと、遊びのこと、環境のことなどなど。いっぱい考え工夫さ れ、保育中は体を使い協力し合って・・・。 こんな園が日本中にあるといいな、と心から思った帰り道でした。

基本情報

園名

まんとみ幼稚園

住所

東京都江東区亀戸1-14-12

連絡先・ホームページ

電話:03-3681-4252